守り 育み 伝えたい 子どもの笑顔 豊かな自然
「子どもたちの声が飛び交い、人と人のつながりの中で豊かに暮らしていける島」-。糸島市志摩の姫島公民館で、22人の住民が集い、4~5人ずつのグループに分かれて熱く語り合う姿があった。テーマは「10年後に見たい未来」。
地域の課題解決と持続可能な地域づくりを目指し、人口減少や高齢化が進む地域で、住民が市のサポートを受けて2年前から実施している意見交換会。行政区単位で開き、住民が主体的に地域の将来像を描き、その実現に向けた取り組みをしていくというものだ。
同市では、JR筑肥線沿線を中心に人口増加が続き、第二次糸島市長期総合計画で掲げた10万4千人を突破。一方で、市の魅力である海や山の豊かな自然や、伝統文化を受け継ぐ地域では人口減少が進み、コミュニティーの基盤が揺らいでいるところもある。こうした中、危機感を抱き、手を挙げた11行政区が、地域の魅力を再確認し、地域の未来を思い描き、その実現に向け動き出した。
課題解決目指し 取り組み着々と
◆姫島では学生参加
同市志摩の岐志漁港から船で15分の姫島は、人口約150人の島で、主に漁業を生業としている。2023年1月、須田正人区長の呼びかけで集まった住民らが第1回目の意見交換会を行った。島は空き家が増え、子どもの人数が減り続けるという現実がある。
7年後の32年には人口は121人に、高齢化率は35.3%から58.8%に達すると、市と連携する研究機関(島根県中山間地域研究センター)が予測する厳しい見通しをもとに、住民たちは「子ども」「地域のつながり」「活性化」をテーマに意見を出し合った。昨年の6月には、観光客への食事提供や子どもが増える地域づくり、宿泊施設の整備、インターネット環境の改善など具体的なテーマに基づく部会を設置し、実現に向けた動きを本格化させた。
一方で、外部の若い力もこの取り組みに参加。市の事業を活用し、中村学園大学流通科学部の学生14人が、現地調査を行い、特産品や観光資源を活用した提案を行った。11月23日には、姫島公民館でプレゼンテーションを実施。釣り客向けに販売する軽食として、ネコが多い島の特徴を取り入れ、ネコの形をしたかわいらしいおにぎりなどを提案した。
住民と意見交換をしながら「具材は島の名産を入れよう」「島で採れるタマネギでつくったタマネギみそはどうかな」と知恵を出し合った。学生の田中瞳さん(21)は「販売のための施設整備や保健所の許可申請など現実的な課題が見えた。また、提供時間を船の到着時刻に合わせることや、製造数などをもっと詰めていきたい」と意気込んだ。
◆瑞梅寺は「交流」重視
井原山の裾野に棚田が広がる、中山間地域に位置する瑞梅寺行政区では、昨年の12月7日に3回目の意見交換会が開催された。ここ数年の間に若い家族が移住したため、8年後の予測値は人口が141人と現在より微増だが、「楽観視はできない」と井上雅春区長。これまでの話し合いで「『自然豊かで暮らし続けられる』『世代間交流が盛んな』『新しい人を迎え入れられる』瑞梅寺」とビジョンを絞り、今回は具体的取り組みについてアイデアを出し合った。
「住みたい・住み続けたくなる環境つくり」をテーマにした班では、「若い世代や子育て世代など、これから地域を担っていく人の声を聞きたい」と、桜の名所でのお花見会や運動会の復活など、人が集まり交流する機会を設ける案が出た。「恒例の防災訓練を競技にした防災運動会にしてはどうだろう」「小さい子の参加しやすい種目を取り入れたら集まるかな」などアイデアが飛び出した。
◆共通課題と未来の一歩
2年にわたり11行政区で行われてきた意見交換会では、交通アクセスの改善や若い世代の定住促進などが共通の課題として浮かび上がった。市はこれらの課題に対するモデル事業を、行政区と連携して展開し、解決策を具体化する方針だ。また、どこの行政区でも「出て行った子どもたちに帰って来てほしい」という切なる願いがある。地域外に出た若い世代が戻りたくなる地域づくりについても、関連機関と協力して着手する予定だ。
「単純に人口維持や増加を目指すのではなく、時代の変化に対応しつつ、地域としてどうありたいかを考え、出たアイデアの具体化に伴走していきたい」と市の担当者。今年も新たな行政区を加え、持続可能で魅力的な未来を描きながら、実現に向けた取り組みへと歩みを進めていく。
(糸島新聞社ホームページに地域情報満載)