家の整理をしていたら、紙袋に包まれた古いハサミが出てきました。レコードを聴くための「竹針」を切るのに使っていたものです。手に取った瞬間、懐かしさで胸がいっぱいになりました。

使っていたのは1937(昭和12)年ごろで、私はまだ小学1年生。音楽好きだった私は、兄が懸賞で当てた蓄音機に夢中になりました。当時、鉄は軍需物資で貴重だったため、レコードの針には竹を使っていました。竹の針は摩耗しやすいので、ハサミで先をチョキンと切って調整していたのです。
竹針で聴く音楽は、鉄針に比べると小さめでしたが、温かみがありました。初めて蓄音機から音が流れたときには「誰か人が入っとうと?」と家族に尋ねたほど驚きました。
ハサミと一緒に、よく聴いていたSPレコードも約50枚見つかりました。山口淑子(李香蘭)の「紅い睡蓮」や美空ひばりの「私は街の子」など、懐かしい曲ばかりです。記憶を頼りに、自分で竹針も削ってみました。3センチほどの小さな針ですが、あの頃の音がよみがえってくるようです。
当時は蓄音機がある家すら珍しいことでした。戦争や時代の変化を経ても、こうして昔の道具や思い出が手元に残っていたことに、喜びを感じています。
(糸島市前原東・山口宗春)
(糸島新聞社ホームページに地域情報満載)