長糸校区で研修会開催
サルやイノシシなどの野生鳥獣による農作物被害が深刻化し、人々の暮らしとの境界が全国的に揺らいでいる。山間部を抱える糸島市も例外ではなく、地域住民からは「サルの餌になるくらいなら野菜作りはやめた」など悲痛な声も上がる。こうした状況を踏まえ、住民・行政・専門家が一体となって対策を進めるための研修会が11月21日、同市の長糸コミュニティセンターで開かれた。

研修会には、長糸校区の六つの行政区から4~5人ずつが参加。講師を務めたのは農林水産省登録・農作物野生鳥獣被害対策アドバイザーの和田晴美さん。
和田さんは冒頭「専門家から見ても糸島の状況は深刻。まずは地域全体が同じ方向を向くことが重要」と強調。サルの群れを統率するボスザルをむやみに捕獲すると群れがバラバラになり、かえって被害が拡大することなど「まず相手を知ることが対策の第一歩」と力を込めた。さらに地域の現状について、餌となる放任果樹が点在し、ねぐらとなり得る耕作放棄地が増えていることを挙げ「人里が野生動物にとって居心地の良い環境になりつつある」と背景を説明した。続いて、特に被害が大きいサルの習性や行動を紹介し、対策に欠かせないポイントとして
①電気柵などによる物理的な侵入防止
②放任果樹の伐採ややぶの刈り払いによる生息環境の整備
③動物の習性を踏まえた個体群管理
の三つを示した。

他地域の優良事例として、ビワ、イチジク、クリ、カキなど年間を通して餌となる放任果樹の半数を伐採し、農作物残さをすきこみ処理した取り組みを紹介。また、住民有志が結成した「モンキーバスターズ」が、音や光だけでなく電動エアガンによってサルを追い払った結果「サルは学習能力が高く、エアガンを見ただけで逃げるようになった」という報告も共有した。
後半では、行政区ごとに着席した机で航空写真を基に地域の実情を確認。「タマネギ苗が膨らみ始めたと思ったら全部引っこ抜かれた」「ダイコンの肩の部分だけかじられた」「屋根の上にサルが居座っている」など、参加者が地図上に被害状況を書き込み、今後取り組みたい対策について意見を交わした。和田さんは「行政と専門家だけでは何もできない。地域住民が前向きに協力し合うことが最も大切」と、地域ぐるみの行動の意義を繰り返し訴えた。

白糸行政区の大串幸男さんは「何から手を付ければいいのか途方に暮れていたが、まずは今日学んだ三本柱を地域で共有したい。放任果樹もただ伐採するだけでなく、サルに食べられる前に利活用する方法も考えたい」と意気込んだ。
市は今後、同校区内でモデル地区を選定してフィールドワークを行うなど、専門家と共に3年間にわたり対策を進め、同様の研修会を他校区へも広げていく方針。また、箱わな100基の配置、新規狩猟免許取得者に対する免許取得費用の全額補助、追い払い用のロケット花火の購入費半額補助などの取り組みを進める予定だ。
(糸島新聞社ホームページに地域情報満載)
