「この山はどこから見たら一ばん美しいだろうか」。元中学校美術教師の故小金丸輝さんが糸島新聞で40年前に連載した「ふるさと彩時記」で、可也山に触れた回がある。柔らかいタッチの可也山のスケッチに文章が添えられ、小金丸さんの深い郷土愛が感じられる▼本紙で現在、同様に風景画の「糸島八景」を連載している東京在住のアーティスト、大川博さんも糸島に強い愛着を感じ、芸術の力で糸島の魅力を広めていこうと活動をしている。今月中旬、絵の題材を取材するため、糸島に来られた際、同行してさまざまな景色を見て回った。そのとき、いろんな方向から可也山を目にした大川さんは、小金丸さんと同じ言葉を漏らした。見る場所によって、山容がまったく異なる変身ぶりは、画家たちの好奇心をかき立てるのであろう▼小金丸さんは連載の中で「周船寺や怡土の田園あたりからがすばらしいという声。なるほど少し遠景になるが鋭角的に秀麗な表情を見せる」と記す。そして、最も美しいと感じた場所をつづる。それは意外にも船上からの眺めだった。岐志から姫島に渡るときのこと。「背後に遠ざかる可也山の美しさは絶景といってよい。白い航跡がつくる海上の帯の向こうに端麗な山容が、刻一刻と変化する」と書いている。掲載されたスケッチはこのときの風景を描いたものだ▼大川さんが最も心を揺さぶられた風景は、引津湾の向こうに見える可也山だった。穏やかな海面には、逆さ富士となって可也山が映っていた。志摩船越の万葉の里公園そばの海辺から見た光景だ。今週号の糸島八景は、これをもとに創作した▼逆さ富士が見られるのは海だけではない。糸島には広大な田園風景がある。田んぼに水が張られ、水鏡となったとき、壮大な逆さ富士があらわれる。富士と名がつく山には、ほかにも魅力的な現象がある。たとえば、山頂と太陽が重なる「ダイヤモンド富士」。それが夕日であれば、明るく鮮やかな赤色の世界を堪能できる。ちょっと、思い浮かべてみませんか。あなたは、どんな姿をした可也山が好きですか。
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