高い湿度や気圧の変化で自律神経が乱れるのだろう。梅雨になると、毎年、食欲が落ちる。特に、朝は胃腸が思わしくなく朝食を抜いておこうと思う日がある。こんな話をすると、知人から勧められたのが丁子(ちょうじ)。英語ではclove(クローブ)と呼ばれ、カレー粉に調合されるなど身近なスパイスだが、体調を整えようと思って口にするのは初めてだ▼スーパーで買ったのは、粉末状ではなくホール(原型)の丁子。風味を確かめるため、試しに、小さくて細長い褐色の粒を口に含んでみた。香りはバニラのように甘美。ただ、少ししびれるようなピリッとした辛みが舌の上に広がる。刺激があるスパイスなので、過剰摂取は禁物。それぞれの体調に合わせて適量をとるのが大切。個人的には、野菜スープの中に一粒入れ、味にアクセントをつけるような感覚で食べている▼それにしても、ユニークな形をしている。インドネシア原産の常緑高木のつぼみを摘み取って乾燥させたもので、釘(くぎ)の形に似ている。このことから、釘の象形文字とされる丁の字が名前に使われている。クローブという言葉も、仏語の釘を意味するクルーに由来しているという▼丁子の形をあしらった装飾を意外なところで見かけることができる。唐津神社(唐津市)の秋季例大祭「唐津くんち」で、勇壮にひかれる曳山(やま)の一つ、七宝丸の本体だ。迫力あふれる漆塗りの龍頭と火炎が目を引く船形の曳山で、その名の通り、七つの宝を積んでいる。その一つが丁子。2本の丁子を交差させたデザインの金色の装飾が欄干に施されている。昔、丁子は富と繁栄を象徴する宝物だった▼実は、奈良時代の宝物を収めた正倉院(奈良市)に、聖武天皇の遺愛品と共に、丁子が保管されている。遣唐使によって唐からもたらされた貴重な輸入品だった。ヨーロッパでも同じ。ローマに1世紀頃にもたらされ、その価値は金と同等だったとされる。それが物流の進化や栽培技術の普及により日常使いの香辛料に大転換。幸福度を高めてくれた先人たちに感謝しつつ、食の豊かさを享受したい。
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