農業の進化
近年の梅雨は、雨が降るといったら驚くほどの量が降りますので、これまでの感覚ではなく、各自防災はしっかりしておくことが大切ですね。
さて、この梅雨。我々人間だけでなく、作物にとってもけっして良い条件ではありません。日照不足に高温多湿の環境は、私たちの暮らしにも大きな影響がありますよね。カビによる食中毒や洗濯物が乾かない。家や車内も湿度が高くなり、家具やハンドルなどがべたつくなど、不快指数が上昇し、私たちの体力もやたら消耗していきます。
作物にとっても、ここは正念場。生育にとって一番堪える要因が日照不足。それは、作物の生まれ故郷が物語っています。
特に春夏野菜としては、トマトは南米のアンデス高原で、赤道に近い亜熱帯地方。ナスはインドの東北地方で、熱帯性の植物。ピーマンは中央アメリカから南アメリカのやはり熱帯地方。カボチャはメキシコとグアテマラ。スイカは南アフリカのカラハリ砂漠とその周辺のサバンナ地帯。標高差などで生育温度に差異はありますが、間違いなく、燦燦(さんさん)と日照りが多いところが、原産地であることがわかります。
植物の「光合成」。日光のエネルギーを利用して、水と二酸化炭素からでんぷんと酸素を作り出すはたらきのことです。これは葉緑体で行われ、このときに作り出されるでんぷんは、基本的に動くことのできない植物にとって、生きていくために必要な養分になります。
ここで、特に重要なのは、日照が少ない時は、光合成機能が衰えているので、いくら肥料を追肥してもなかなか吸収してくれず、雨で土が過湿になると新鮮な空気が不足し、根傷みや根腐れを起こす原因になります。よく勘違いして、生育が悪いから、どんどん追肥をされている方がおられるようです。
対策としては◎排水性の向上◎酸素欠乏改善◎ミネラル類の補給がおすすめです。
◎排水性の向上は、畝間の溝に水が溜まらないよう、なるべく溝を切って、排水を促す。
◎酸素欠乏改善は、畝の表面を軽く耕し、酸素の通りをよくする(通気性の確保)。ただし、根が弱っているので、強く耕すことは避けてください。
◎ミネラル類の補給については、元気な生育の時は、チッソ、リン酸、カリウム成分を吸収するのですが、光合成機能が弱い時に必要なのが、カルシウムやホウ素やマンガンなどです。よって、カルシウムやマグネシウム、硫黄などを含む「畑のカルシウム」を1坪当たり150グラム目安に与えると、弱った根を傷めずに、逆に活性化を促進してくれます。
例年ですと、7月中下旬に梅雨明けを迎える北部九州。ここは辛抱強く、作物の生育をしっかり観察していきましょう。次回は、この時期の病害特集です。
(シンジェンタジャパン・アグロエコシステムテクニカルマネジャー 古藤俊二)
※糸島新聞紙面で、最新の連載記事を掲載しています。