本誌記者 玄界灘で遊漁船体験ルポ
豊かな自然と美しい海で知られる糸島市。特にタイの漁獲量は日本一を誇り、その新鮮な味わいは地元だけでなく全国の食卓をも彩る。遊漁船に乗り込み、玄界灘の海でタイ釣りを楽しむという、未経験者にはややハードルの高い冒険に挑戦してみた。糸島の海の魅力に引き込まれた一日をお届けする。
昨年12月2日、午前5時40分、糸島市志摩の岐志漁港。遊漁船「長福丸」が静かに海を滑り出す。船長の吉村征晃(まさみつ)さん(41)は、22年の漁師歴を持つ玄界灘のプロ。姫島周辺で漁をしながら、約10年前から遊漁船を始めた。

船が向かうのは、糸島市志摩の烏帽子島近く、イズミ前と呼ばれるポイント。この時期、脂が乗るマダイが集まるスポットを目指す。
この日の釣り客は、女性記者(48)の私を含め7人。瀬崎博之さん(53)は、年に30、40回は釣りを楽しむという。「この年になるとドキドキすることなんてなかなかない。釣れるか釣れないかのスリルが楽しいよね」。田中重雄さん(74)は「釣りは年配でもできる。竿(さお)に集中すると日常のことを忘れられる」と語る。

出航から約1時間、ポイントに到着すると、田中さんが「さあ、戦闘開始だ」とぽつり。朝焼けに染まる空を背景に、乗船客は黙々と態勢を整える。まずは竿に仕掛けを準備し、海底まで沈める。

今回挑戦した「タイラバ」は、鉛製のヘッドに魚を引き付けるラバー類、針などを組み合わせた疑似餌(ルアー)。この疑似餌がエビや小魚のように見えることで、マダイが食いつくという仕組みだ。これを使う釣り方を「タイラバ」と呼ぶことも。さらに、タイラバ釣りはエサを付けないスタイルが基本だが、糸島では小エビを付ける「エビラバ」も行われる。初心者でも扱いやすく、手軽に挑戦できるため人気を集めているという。
私も初めての釣り竿を握り、吉村船長のアドバイスを受けながら仕掛けを海へ。水深は約55メートル。「底に着いたら、10メートルくらい巻き上げて」と指示される。波の音だけが響く中、釣り糸に集中する。

開始15分、最初のヒットは浅井正道さん(78)。手際よくリールを巻き上げ、50センチ近いタイを釣り上げた。「腹がパンパン。脂が乗ってますね」との吉村船長の言葉に、私も思わず釣りたい気持ちが高まる。
格闘の末37センチゲット 塩焼きに舌鼓
試行錯誤すること、約2時間。リールを巻く手に力がかかり、何度か糸が引かれる感触が!釣り上げたのは、手のひらサイズの約20センチのタイ。小さくても、初めて魚を釣り上げた喜びは格別だった。
ふと気づくと、周りの釣り客に次々と当たりがきている。「潮時だよ」と田中さん。満潮から干潮に変わり、魚が活性化するとのこと。そして私にも、大物らしき強い当たりがきた。「ゆっくりリールを巻いて。タイの力も弱まってくるから」と瀬崎さんからアドバイスを受け、慎重に巻き上げると、37センチの立派な桜色のマダイが姿を現した。吉村船長が網ですくい上げてくれ、充実感でいっぱいになる。


吉村船長は終始、私の竿の仕掛けを付け替えたり、糸の絡まりをほぐしてくれたりして、初めての釣りを楽しませてくれた。昼から小雨が降ったこともあり、釣果は「かなり渋かった」とのこと。約9時間の釣りで、私はタイ3匹とカサゴ1匹を釣り上げ、他の乗船客からアコウなどお裾分けをいただき、計6匹を持ち帰った。

家に戻って家族で食べた、塩焼きや煮付けは絶品。ふっくらとしたタイの白身は甘みがあり、海の恵みを存分に感じることができた。釣果はともあれ、自然と向き合いながら、人の親切に支えられた感謝が心に残った。
長福丸では5~8月頃、イカの夜釣りも人気とのこと。新たな発見を求め、糸島の豊かな海に出かけてみてはいかがだろう。
(糸島新聞社ホームページに地域情報満載)