決して戦争ができる国にしてはいけない。頼むよ、君たちー。10日は、3年前に82歳の生涯を閉じた大林宣彦監督の命日。「映画人生の集大成」と位置付ける作品「花筐/HANAGATAMI」が2016年、佐賀県唐津市を舞台に撮影された。ロケ現場や記者会見の場で何度も大林監督にお会いした。進行した肺がんが見つかり、声はかすれていたが、平和を思う言葉は力強く心にしみ込んだ▼花筐は作家、檀一雄の小説が原作。戦争の時代に突入する昭和初期、平和を切実に願い、自分らしく生きた男女の青春群像劇だ。「青春が戦争の消耗品なんて、まっぴらだ」。映画の中で主人公の1人が言い放ったせりふ。「自分の命ぐらい、自由にさせてほしい」。戦争で未来をもぎとられた大林監督の父親や檀一雄の世代の真情を発露させる▼映画では、唐津くんちの宵曳山(よいやま)が重要な場面として登場する。「エンヤー」「ヨイサ」。粋でいなせな法被姿の曳(ひ)き子たちが駆け抜けていくさまを通し、大林監督が訴えかけた思いがある。「古里の文化を守る人たちの志が素直に世界を平和へと導いていく」▼穏やかな明日があるからこそ、文化は守られて次の世代へと受け継がれていく。こうした気高き精神を持つ人たちが戦争を起こしたりはしない▼それでも戦争は日常生活の中に忍び込み、いつの間にか、人々のそばに立っているー。戦争を体験した最後の世代として、大林監督は少年時代、それを直に感じ取った。平和を引き寄せようと、最期まで映画をつくり続けた大林監督。とても書き尽くすことはできないが、そのフィロソフィーを、事毎に小欄でつづりたい。
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