【糸島市】《糸島新聞連載コラム まち角》「古里」を残していこう

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見慣れた風景が、実はほかにはない宝物であると、つくづくと感じさせられた。広大な田園の向こうに、なだらかに山裾をひく可也山。昨秋、放送が始まったNHKの連続テレビ小説「おむすび」で映し出されるその光景は、とても神々しかった。のどかさの中に、稲作文化をわが国でいち早く受容した地という悠久の歴史すら感受させた▼朝ドラを見て、誇るべき「古里」だと、糸島を見つめ直してみた人も多いだろう。そんな思いを巡らしていると、「古里映画」と呼ばれる数々の作品を全国で撮った監督の言葉が心によみがえってきた。古里に対する強烈な思い入れが印象的だった。5年前に亡くなった大林宣彦監督。佐賀県唐津市を舞台に、映画人生の集大成となる作品「花筐/HANAGATAMI」の撮影が行われた際、ロケ現場や記者会見で何度も大林監督とお会いする機会があった▼大林監督が「古里映画」の舞台として選んだ地は、どこも古くからの文化が息づき、和やかに生きていく知恵のある人々が暮らす里。「古いものが残っているというよりも、残しているんです。文化に愛着と誇りがあり、それを伝え、生かしている」。大林監督にとっての「古里」は、生まれ育った地を指す「故郷」ではなく「古い里」だった▼九州では、大分県臼杵市でも、古里映画の「なごり雪」(2002年)をつくっている。経済的な豊かさを求め、恋人を捨てて古里を去った主人公と、古里に残ってその恋人と結婚し最期まで守り抜いた旧友の物語。2人の生きざまを通し、金と物を求め、古里を開発して壊していった社会のありようを問うている▼「おむすび」の放送で、魅力的な地域として全国に知られるようになった糸島。これまで以上に多くの観光客がやって来るだろう。ただ、大切に受け継がれてきた古里を守っていくということは決して忘れてはならない。観光客の受け入れと開発がむやみに結びつけば、糸島の古里は、その荒波にのみこまれてしまう。人々が豊かな心で、幸せに生きていける地。古里をいつまでも残していこう。

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