巳(み)年を迎え、自宅の居間の壁に飾っているアートポスターをじっくり見た。描かれているのは7匹のヘビ。黄と赤、青に塗り分けられた7匹は、まるで逆立ちでもするかのように体を絡ませながら宙に上げ、その先の尾を四方八方に広げている。白い小枝が無数にあしらわれ、背景は黒一色。夜中、聖なる菩提樹がヘビの姿に変わる神秘的な物語が描かれている▼見事な構図で、詩的なこの絵に一目ぼれし、ポスターを買ったのは5年前。福岡市のギャラリーで開かれていた「世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦」展を鑑賞したときのことだった。南インドの出版社タラブックスは、インドのさまざまな地域の民俗画家と組み、その作品を本にして出版している。自宅のポスターの絵は「夜の木」というタラブックスを代表する絵本の表紙に使われたものだった▼展示会のとき、この絵本とどう向き合ったのか記憶がない。ただ、調べてみると、この絵本は、イタリアで2008年に開かれた児童書の国際見本市に出された時、世界中の編集者がその革新性に驚いたという。実際に、この絵本を手にし、その画期的な本づくりについて深く知りたくなり、近隣の公立図書館で蔵書はないか探してみた。残念ながら、所蔵するところはなく、タラブックスの活動について触れた本を通し、どんな絵本か知ることにした▼商業出版でありながら、ハンドメイドされているのが注目すべき点という。ふかふかした手すきの紙に職人がシルクスクリーンで印刷し、その紙を棚に並べて乾かしてから、一冊ずつ手製本していく。しかも、一般の書店で流通できる価格設定になっているという▼いつか、この絵本に出合ったとき、ぜひ紙の手触りを楽しみながら一枚一枚めくっていきたい。本そのものが時間をかけてつくられた芸術品だ。パソコンやスマートフォンの画面で電子書籍を読む人が増えているが、紙の魅力はまだまだ追求していけるところがあるのではないか。タラブックスの本づくりは新聞人としても考えさせられるところがある。
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