【糸島市】ドクター古藤の園芸塾Vol.96(11/8号掲載)

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タマネギ栽培スタート

ここ数年、プロの生産者も家庭菜園の方も、共通して話されるのがタマネギ栽培問題。「このごろのタマネギは、いっちょん玉の太ら~ん」「軒下にぶら下げとっても、すぐ腐って、ボトボト落ちて使い物ならんばい。おまけに臭かっちゃん」「もう作られんばい」

 いや~、なんともネガティブなご意見。わからんでもないです。今までと違って、タマネギの生育や収穫量などが思ったように手応えを得ることができない。このことについて、県の専門技術者や種苗会社、肥料、農薬会社など、いろんな立場の方々からご報告を受けます。

 主な原因は重要対策病害「べと病のまん延」。また、べと病を誘発、増発させてしまう気象条件の重なり。例えば、日照不足、干ばつ、風雨、暖冬など。佐賀県のタマネギ出荷情報では、2024年は3~4月の多雨や低温による生育不良で収穫量が減り、卸値は平年比43%高となったそうです。

 お子様からご年配の方まで、比較的簡単に栽培できるのも「タマネギ」の魅力でした。タマネギに限らずニンニク、ラッキョなど他のユリ科野菜も過去に比べ、育てづらい環境にあるようです。

黒カビ病が貯蔵中のタマネギに発生。鱗茎の外葉から数層に褐色の腐敗を生じ、黒色のカビを生じる

 では、どのように対処していくのか。まず一つ目は、苗の定植時期。例年では、タマネギ苗の流通量が安定してくる11月中下旬に定植が集中していました。もし、苗の入手が可能であれば、なるべく遅い時期に植える

 例えば12月中下旬植えに照準を合わせる。暖冬傾向が顕著化しているため、苗を遅植えしても積算温度が変わらず、十分生育する可能性が高くなっています。また、生育が前進しにくく重要病害「べと病」の感染率が低くなるなどの要素が考えられます。

 二つ目は、カリウムやカルシウムなど、細胞強化に影響がある肥料の積極的な導入。降雨が多く、暖冬傾向であれば、作物は窒素成分を好んで吸収する傾向にあります。

 確かに見た目には生育が旺盛で、葉色もよく一見生育がよさそうですが、肝心のカルシウムやカリウム成分を思ったほど吸収していません。よって、細胞はそれほど強くないようです。

 そこで、対策として、カルシウム系の追肥を加え、葉色の様子を見ながら、カリウム成分中心の肥料の追肥を行ってください。

植物の細胞強化に寄与するけい酸加里。1坪当たり80~150㌘が施用目安(元肥と混合)

 三つ目は、苗の大きさ。定植苗が大きすぎても逆に小さ過ぎたりしても、とう立ちや分球の発生するリスクが格段上がってしまいます。目安は100本束重で500グラム、つまり太さ5~7ミリ径で1本当たり5グラムが理想の定植苗サイズです。現実的には、理想の苗サイズを12月中下旬に入手し定植するのはなかなか困難ともいえます。

 しかし、これだけ気象が変化してくると、今まで通りの栽培方法では、毎年同じことの繰り返しになってしまうのではないでしょか。調理に欠かせない重要な野菜である「タマネギ」が皆さんの手に渡るよう、これからも栽培研究と実践を高めてまいります。

 (シンジェンタジャパン・アグロエコシステムテクニカルマネジャー 古藤俊二)

※糸島新聞紙面で、最新の連載記事を掲載しています。

古藤 俊二さん
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この記事を書いた人

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