糸島の里山の清流でも、ゲンジボタルが淡い光を瞬かせる季節になった。飛び回っているのは雄。雌は葉などに止まり、光の舞を見て、気に入った雄に光で合図を送る。成虫になってから10日ほどの命。ホタルは、このわずかな時間を、子孫を残すためだけに使う。餌をとることはなく、退化してしまった口で水を吸うのみである▼口が退化した昆虫といえば、カゲロウもそうである。その命はもっと短い。成虫になってから、数時間から長くても数日の命。成虫は、やはり生殖のためだけに生きる。ただ、結婚相手を探して飛ぶさまは、まさに陽炎(かげろう)のごとく、ゆらゆらとして天敵から捕食されやすい。そんなカゲロウが命をつないでこられたのは、成虫で長く生きて天敵に襲われるより、その危険を避けて短時間のうちに生殖行為をするライフサイクルによるものだとの見方がある▼生き残るため、昆虫が見せる驚異の生き方。変態して大きく姿を変えていく成長の過程も、奇跡そのものではないかと思う。ホタルもカゲロウも、成虫のときと、幼虫のときは、別の生き物であるかのように見た目も生活の仕方も異なる▼たとえば、ゲンジボタル。その幼虫の外見はまるでイモムシ。水しかとらない成虫の優し気なイメージとは違い、肉食をして栄養を蓄え、やがて、さなぎとなる。この段階で、神秘的ともいえる変化が起きる。イモムシは、黒く硬い羽が背中を覆う甲虫に姿を変え、お尻には発光器をつける▼幼虫が脱皮を繰り返した後、さなぎを経て成虫へと変化することを「完全変態」という。ゲンジボタルは、変態の度に生活の場を変えるユニークな生き方をする。産卵場所は水辺のコケ。ふ化した幼虫は餌のカワニナを求めて水中に入る。ただ、さなぎになるときは、水中から岸に上がって土の中にもぐる。そして、羽化をして空中へと飛び立つ。水辺、水中、土中、そして空中。これらの環境が一つでも破壊されると、ゲンジボタルは生きていけない。ホタルの乱舞は、バランスのとれた自然が保たれている証し。この光景をいつまでも残していきたい。
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