春の使者シロウオ 今年も加茂川を上る

 糸島市二丈福井の加茂川河口で、産卵のため海から遡上(そじょう)するシロウオを昔ながらの漁法で捕る、「シロウオのヤナかけ漁」が今年も始まっている。

 シロウオは、体長4㌢程度、ハゼ科で、ふ化すると海へ下り、沿岸の藻場で成長し、産卵のため川へ上る一年魚。春になり水温が上がり始めると、先発隊のオスが淡水域まで河川を上り、川底の石の下に産卵用の穴を掘る。続いて遡上してきたメスはその巣穴に産卵する。

 潮の干満の差が大きくなる大潮の時期を狙い、潮と共に遡上する成魚をヤナにかけたかごの中に誘導し、捕獲する。

 同川河口部に位置する佐波地区では2月中旬、地区総出で加茂川に伝統のヤナを三つ設置した。3月に入り気温が上がってくると2人1組の当番がかごを引き揚げ、中に入ったシロウオを水揚げする。漁獲量を見ながら4月下旬まで漁は続く。

 気温20度を超える汗ばむ陽気となった22日は大潮。潮の引き始めた昼過ぎに当番の濱地義文さん(68)と大松康さん(48)がシロウオ小屋に集まった。腰まである防水長靴を履き、ざるを持って川へ。三つ仕掛けたヤナの上流側から順次かごを揚げていく。

 「上流側はあまり入らんのやけど、今日は入っとるな」。濱地さんが持ちあげたかごの中でぴちぴち跳ねるシロウオを、大松さんが構えたザルにあけると、シロウオと一緒にサワガニも2匹飛び出してきた。3つ目のかごまですべてあけると、ざるの中のシロウオと枯れ葉やゴミを選り分ける。引き揚げたかごはブラシで泥を洗い流し、また元の場所に設置する。

思わぬサワガニのお客さん
思わぬサワガニのお客さん

 ざるにたんまりと入ったシロウオは枡に入れて計量すると、大盛3合(約640㌘)分。あらかじめ声のかかっていた濱地俊英さん(73)宅に、当番がそのまままっすぐ届けた。

 「雨の日は水温が上がらんからあまり入らん。雨が降った後は沈めたかごに落ち葉や流れてきたものがひっかかり水がよどむし、海が荒れると海藻などがかごに入ってしまう」と濱地義文さん。河口に設置するヤナかけには海と川の両方の条件が複雑に絡み合い、シロウオの水揚げ量を左右する。「川底のあちこちに石があることも大事」。かごを揚げに川の中を往復するときは、産卵場所である川底の石はできるだけ踏まないよう砂袋を転々と沈め、その上を踏んで移動する。

 ついさっきまで泳いでいたシロウオを受け取った俊英さんは、「塩でぬめりをとって今夜はそのままお吸い物に。残りは冷凍して、子や孫が帰ってきたときにご馳走する」とにっこり。「煮立ったお鍋にシロウオを入れると真っ白になる。味を調え、仕上げにアオサを散らすとシロウオの出汁が効いた春のお吸い物に」。柔らかくつるりとした触感のシロウオのおいしさを味わえる濱地俊英さん宅の昔からの食べ方だ。他にも、かき揚げにしたり、つくしと卵とじにしたり、各家庭で味わい方はさまざま。

 昨年の漁獲量は、216合半(約43㌔)だった。年によって変動があるが、ここ数年では捕れた方。集落内での売買がほとんどだが、たくさん捕れたときは、外部に販売もする。春の風物詩を求めて前原や福岡市から買いに来るお客さんもいる。

 「佐波で長く引き継がれてきたシロウオ漁がこれからも続いていってほしい」。俊英さんはまだぴちぴちと跳ねるシロウオの入った袋を手に、佐波の伝統漁法が守られていくことへ思いをはせた。

シロウオのヤナかけ漁の様子
枡いっぱいで1千円で販売する
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