【糸島市】《糸島新聞連載コラム まち角》名著で楽しむ大冒険

まち角アイキャッチ

 夏休みになると、冒険心が湧きたってくる。そんな子ども時代を送った方は多いのではないだろうか。思い返すと、学校の時間割から解放され、大自然と触れ合ったり、知らないところを訪ねたりと、自由に動き回った記憶がよみがえってくる▼読書を通し、未知の世界に足を踏み入れてみるのも、夏休みならではの過ごし方。学生時代、夏休みに幾冊も読んだ冒険小説を思い出しながら、自宅の書棚に並ぶ文庫本を眺めていると、約300年前に初版が出版された誰もが知る名著に目が留まった。英国の作家デフォーの「ロビンソン漂流記」(吉田健一訳)。船が難破して絶海の孤島に漂着したロビンソン・クルーソーが28年間にわたり自給自足の生活を営み、後に帰還する波乱万丈な物語。読み返してみると、創意工夫に満ちた主人公のサバイバル術にひきこまれ、ページをめくる手が止まらなくなった▼ただ、この本は冒険物語としてだけではなく、さまざまな読み方がなされている。「資本論」を著した思想家・経済学者のマルクスは、その中で「経済学はロビンソン物語を愛好する」と記している。無人島で生き延びるのに欠かせない安全な住居づくり、狩猟や採取、農耕による食料の確保、生活用具づくりといった労働。この物語を引き合いに、マルクスは、人間の生存と労働の普遍的な関係を明らかにしようとした▼一方、ドイツの社会学者マックス・ヴェーバーは、ロビンソンが神から与えられた天職として労働をこなし、富を生み出したことに着目。合理的に生産を続ける禁欲的なプロテスタントの精神を見出した▼ロビンソン漂流記と併せて読んだ本がある。アイルランドの作家スウィフトの「ガリヴァー旅行記」。ロビンソン漂流記と同じ時代に出版された。第一篇の小人の国があまりにも有名だが、実は第四篇まであり、空中に浮かぶ島「ラピュタ」や、実在国の日本も登場する。奇想天外な物語の裏には、当時の政治や人間社会に対する強烈な風刺が隠されている。時代を超えて読み継がれる名著は、知的冒険に満ちている。

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