ドクター古藤の園芸塾Vol.35【8/4号掲載】

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外来の害虫の被害拡大

 今年は豪雨の梅雨を過ぎたと思ったら、今度は連日30度を超える猛暑の夏。私の幼少の頃は、エアコンなど高級なものはなく、ひたすら扇風機の前で、姉と場所取り合戦をしていました。それでも、自然の多い緑の中で、適度な夕立や、爽やかな風が暑さをクールダウンしてくれていました。


 現代は当時と比べて気温が高いだけでなく、暑さに強く野菜に害を及ぼす、新参者の害虫も増えています
 「トマトの熟れかかっとるけん、採ろ~と(収穫)思っとったら、こま~か穴から虫の食い込んど~やかね。初めてですばい」「あたしは、ピーマンですたい。せっかく梅雨を乗り越えたとにがっぱりやもん」。こんな相談を多く受けます。


 持参されたトマトの食害痕からみると、どうも新種の害虫の可能性と診断しました。


 それは外来害虫「トマトキバガ」=写真①。皆さんはあまり聞きなれない名前の害虫ですね。本種は南アメリカ原産ですが、2006年にスペインへの侵入が確認されて以降、ヨーロッパ、アフリカ、中央アメリカ、西アジア、アラビア半島、インド、ネパール、東南アジアに分布を拡大し、21年までに台湾、中国、中央アジア諸国等の近隣地域でも発生が確認されました。

写真①


 国内では、21年10月に熊本県、同年12月に宮崎県のトマトほ場で初めて確認されました。それ以降、福岡県をはじめとした九州全域、山口県、広島県の中国地域に拡大しています。


 卵~成虫になるまでの期間は24~38日程度で繁殖力が高く、成虫は夜行性で、日中は葉の間に隠れています。雌は一生のうち平均で約260個の卵を寄生植物の葉の裏面などに産み付けます。トマト、ピーマン、ナス、バレイショなどのナス科植物が標的です。


 トマトでは、葉の内部に幼虫=写真②=が潜り込んで食害し、果実にも侵入し内部組織を食害。問題なのは、食害痕から腐敗が生じ果実品質が著しく低下してしまうことです=イラスト①。

写真②
イラスト①


 ポイントは茎葉が透けた袋状の食痕と果実に数ミリ程度の穴が空きます。一般的な被害は「オオタバコガ」というガの幼虫が鉛筆の大きさで果実に穴を空けることが多かったのですが=イラスト②、小さい穴があけられた場合はトマトキバガの被害と考えて良いでしょう。対処としては二通り。

イラスト②


 納豆菌由来の生物剤「エスマルクDF」=写真③。散布後有機農産物扱いで、安全な薬剤として利用できます。1000倍希釈液を散布します。二つ目は、「アファーム乳剤」=写真④。幅広い植物に散布でき、多様な害虫にも対応できるよう研究された薬剤です。2000倍希釈液を散布します。

写真③
写真④


 プロの生産者、家庭菜園者問わず、外来性害虫の被害は年々拡大しています。被害に遭った株を放置したままにしておくと、その株が害虫のコロニーとなり、さらに分布が拡大していきます。糸島の農業を守るのは、家庭菜園の方を含め、地域一体で状況を把握し、取り組んでいく事も大切だと思います。皆さんのご協力、よろしくお願い申し上げます。


(JA糸島経済部部長補佐、アグリマネージャー 古藤俊二

※糸島新聞紙面で、最新の連載記事を掲載しています。

古藤 俊二さん
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この記事を書いた人

1917(大正6)年の創刊以来、郷土の皆様とともに歩み続ける地域に密着したニュースを発信しています。

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