【糸島市】ドクター古藤の園芸塾Vol.92(10/11号掲載)

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雑草の不思議な世界

 自然豊かな緑の中にも、雑草という厄介ものは結構いるものです。しかし、その厄介ものもあまりにも繁殖が旺盛で、我々人間が困り果てる雑草が存在するし、頭が良くて、すごい生き物だと感心させられる雑草も存在します。今回は、普段目にする雑草の面白い生態をご紹介します。

 まずは「オオバコ」=写真。多年草で、野原や道ばたなどに自生する身近な雑草の一つですね。雑草の中でも、特に踏みつけに強いのが特徴です。葉は柔らかいのですが、筋はしっかりしていて、踏まれてもなかなかちぎれません。茎は外側が固く、中がスポンジ状で、しなやかで丈夫です。オオバコと一緒にほかの雑草が生えていた場合、踏まれてもオオバコだけは生き残ります。

 種には水に濡れるとネバネバする性質があり、靴や自動車のタイヤにくっついて運ばれます。オオバコにとって踏まれることは逆境ではなく、むしろありがたいことなのです。オオバコは、人や車に踏みつけられるような環境でなければ、他の植物との競合に負け、生きていけないと言われています。何と逆境を合理的に利用する、生き抜く強さをもった植物ですね。

 次に「タイヌビエ」=写真。タイヌビエはイネ科の一年草で、その名前の通り、田んぼや田んぼの周辺に生育しています。タイヌビエの若い苗はイネにそっくりなので、草取りから逃がれることができます。

 私も「こんなところに稲の苗植えたっけ」と大事にこの株を残し、ほかの雑草の草刈りをしていました。イネ刈りの前になると一気に大きくのびて穂をだし、イネよりも早く種を実らせます。イネ刈りの時期になるとタイヌビエは、もうすべての種をばらまいてしまっているのです。

 タイヌビエが生えると、イネの収穫が減ってしまいます。除草剤に強いものもいるので、厄介な田んぼの雑草です。タイヌビエは、田んぼで生き残るために、稲作の仕方に適応して進化した、ずるがしこい植物といえるでしょう。

 農家の人でも一見してイネとタイヌビエを区別することは難しいと言います。カメレオンやナナフシのように、別のものに姿を似せたりして身を隠すことを「擬態」と言いますが、タイヌビエは作物に似せる「擬態雑草」の一つです。田んぼにたくさんあるイネと同化することで、農家の草取りから身を守ってきたわけです。

 イネの姿に擬態しながら、田んぼの肥料をいっぱい吸って成長し、穂を出して花を咲かせます。タイヌビエの穂は、稲穂とは似ても似つかないのですが、農家の人がその存在に気がついた時はもう遅い。田んぼには、タイヌビエの種子がびっしりとまかれていることになってしまいます。

 生きるための技をもっているのは、我々人間だけではありません。雑草は生き延びるために、あの手この手の技をもって、たくましく育っているのです。

 (シンジェンタジャパン・アグロエコシステムテクニカルマネジャー 古藤俊二)

※糸島新聞紙面で、最新の連載記事を掲載しています。

古藤 俊二さん
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この記事を書いた人

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