【糸島市】ドクター古藤の園芸塾Vol.99(12/6号掲載)

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落ち葉のすごさ

 自然界の落ち葉は乾燥していることに加えて、生葉に含まれていた光合成タンパク質や、ビタミン、ミネラルなどの成分がほとんど含まれていないため、直接的に植物の栄養源としては質的にはかなり低下していますが、動物の死骸やフンなどと一緒にして、微生物の力を借りることで、森の栄養資源となっていきます。

 森の樹木は毎年、新しい葉を展開し、古い葉を落としています。例えばブナやクヌギなどの落葉広葉樹などは、1ヘクタールあたり毎年約3トンの葉を落とすそうです。これだけの落ち葉が地面に落ちたら、その厚さはどんどん増えていくように思われますが、ほとんどは1年間で、ワラジムシ、ヤスデなどが食べ、さらにもっと小さなササラダニなども食べ、粉々にしていきます。こうして、菌根菌などの微生物が働きやすくなり、分解が進み、植物にとって栄養豊かな土になっていきます。

 栄養価が少ない落ち葉で、なぜ木は大きくなるのでしょうか。まずは水。たいていの木は枝を斜め上向きに広げています。降った雨水は枝から幹の表面を伝っていき、その木の根の近くに集まり土にしみ込みます。

 枝の葉っぱは日光を効率よく受けようと広がっています。葉は日光で温まり小さな穴(気孔)から水が蒸発します。蒸発すると、木の中の水圧が低くなり、ストローで吸い上げるように根から水を吸い上げます。

 水には養分(窒素、リン、カリなど)が溶けています。これらの養分はもとはといえば、葉っぱが落ちて微生物に分解されて土になったものです。これらが根を育て、恵みの水を味方につけ、木は大きく育っていくわけです。

 私たちの居住地や公園などでは、落ち葉がごみ扱いされ、除去され焼却処理となっているのがほとんではないでしょうか。庭木や公園樹木は、土に豊富な栄養が含まれているとは考えにくいでしょう。よって、発酵鶏ふんや油粕などの有機物を人為的に与える必要があります。

 森林土壌は、人間でいうと「腎臓」に似ていると言われています。森林の地面に供給された落葉や落枝、倒木、動物のフン、死骸などの有機物質は土壌の中で栄養となり、再び植物が吸収。それを捕食する草食動物、肉食動物というように循環、連鎖します。これは生体内では老廃物を含む血液が腎臓でろ過されてきれいな状態に戻されて身体を再び循環することに似ています。

 私たちの身の回りでも、落ち葉に限らず、野菜や果物の皮などの植物繊維のもの、使用済みの出汁パックなどのタンパク質を含むものなどが、生ごみとして処分されていますが、これも落ち葉同様、立派な有機物です。庭に少し有効スペースがあれば、落ち葉と一緒に果物の皮やいりこ出汁カスなどを一緒に積み上げてみてください。そこに自然と環境を支えてくれる小さな働き者が集まってくれるでしょう。

地表面の落ち葉は、葉や枝の原型がそのままである
10㌢ほど掘ると、落ち葉は小さく分解されていた

 現代は、幾何学的に整備された空間(ビルや最新施設など)が、どんどん増え、自然の連鎖を体験する機会が減っているように感じます。なぜ、「落ち葉は消滅していくのか」。こんな小さな疑問からいろんな見地が広がっていくでしょう。

 (シンジェンタジャパン・アグロエコシステムテクニカルマネジャー 古藤俊二)

※糸島新聞紙面で、最新の連載記事を掲載しています。

古藤 俊二さん
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この記事を書いた人

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