【糸島市】「雨庭」モデル整備

豪雨にも渇水にも備え —市下水道課—

雨水集め、地下へゆっくり浸透

 糸島市下水道課は、前原下水管理センター(同市荻浦)の敷地内に、雨水をためて地中にしみ込ませる仕組み「雨庭(あめにわ)」を整備した。市民がいつでも見学できるモデルとして設置。雨庭の貯留・浸透効果を科学的に検証する九州大工学研究院との共同研究も同時にスタートさせた。激甚化する豪雨と、長期化する渇水。相反する二つのリスクに同時に備える新たな治水策として、市が本格的な普及に乗り出す。市内では初の整備で、福岡県内でも有数の事例となる。

前原下水管理センター内に整備された雨庭のモデル。
雨水を一時的に貯留し、ゆっくりと地中へ浸透させる。

 雨庭は、庭や公共スペースの一部をくぼませ、屋根や路面に降った雨水を集める構造。一時的に貯留してゆっくりと地下へ浸透させることで、水路や河川への流入を抑えると同時に、地下水の涵養(かんよう)にもつなげる。防災・減災にとどまらず、土壌環境の再生や生物多様性の向上にも寄与するとされ、市は「地域の防災・減災力を高める仕組み」と位置づけている。

 市が整備に踏み切った背景には、近年の雨の降り方の変化がある。昨年8月には、志摩の桜井付近で1時間に100ミリを超える猛烈な雨を経験し、浸水被害が発生。長く雨が降らない時期もあり、河川や水路の整備だけでは対応しきれない場面が目立ち始めた。コンクリートや舗装で覆われた市街地では、降った雨の大半が水路へ流れ込み、排水処理能力を超えると路上にあふれる内水氾濫を引き起こす。

 こうした現状を受け、市は「雨水を下流へ素早く流す」従来の浸水対策から、「上流側で貯め、ゆっくり浸透させる」方向への転換を模索してきた。雨庭は流出の「入り口」で水を受け止める、転換を象徴する取り組みだ。

 市は2024年度、九州大の林博徳准教授と連携して市民・職員向けの流域治水講座を複数回開催。参加者アンケートでは「大切だと思う」という声が多い一方、「自分が実際に作るか」となると、関心はあっても二の足を踏む声も聞かれ、知識と行動の間の壁が浮き彫りに。

 今回の整備は、「実物を見て、触れてもらうことで、自宅の庭でも応用できる」と市民に実感してもらうための見本としての性格が強い。32平方メートルという面積は、屋根から引き込む雨水が敷地外へあふれ出ない規模を九州大学の助言をもとに算出したもので、一般家庭ではさらに小規模でも整備できるという。

 施工の指導はNPO法人SOMA(福津市、瀬戸昌宣代表)が担った。木杭や藁(わら)など自然素材を活用する伝統工法を採用し、土壌そのものの浸透能力を高める仕掛けを施した。

 市街地の土は長年の圧力で固く締まり、水の通り道を失っている場合が多い。木杭を打ち込み、石や藁を層状に重ねることで、土中に空気と水の隙間をつくり直す。植栽には福岡グリーンインフラ研究会の助言を基に在来種を中心に選び、長期的に土壌の微生物の活動を維持する役割を担う。

 共同研究は、伝統工法の効果を科学的に裏づけることを目的とする。林准教授が雨庭内に水位計を設置して貯留浸透能力を計測する。

 雨庭の有効性はこれまで経験則で語られることが多く、定量的なデータの不足が広がりを阻んできた。得られたデータを公共施設や一般家庭への展開に向けた設計資料として活用する考えだ。

 今後は同所を拠点に、市民や学生を対象とした「雨庭づくり講座」やワークショップを開催する予定。下水道課の水﨑剛技師は「雨庭は身近な材料で誰でも作れます。実物を見て、水循環の仕組みを体感してほしい。雨庭を少しずつ増やしていくことで、浸水や渇水の備えとなれば」としている。

 現地の見学は随時可能だが、訪れる際は事前に市下水道課=092(332)2083へ連絡を。

糸島新聞社ホームページに地域情報満載)

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